ピンポーンと玄関のベルが鳴った。
ご高齢の紳士が玄関に。
何となく困った様子というか、無表情で目がうつろ。
そして帽子を手に持ったまま無言・・・
額にはびっしょりの汗。
もしかして自宅がわからなくなった?
通い慣れた近所のスーパーから帰れなくなる認知症の人の話を以前にどこかで聞いたような気がする。
でも、この紳士は「道に迷った」とはまだおっしゃっていない。
当たり障りなく
「お訪ね先の住所、わかりますか? お手伝いしますよ。」と私。
しばらーくの沈黙の後に
番地と通りの名前をつっかえつっかえこの紳士が・・・
しかし。
うーん、この近くではなさそう。
よっしゃ。グーグルマップで調べてみよう。
「少しここでお待ちくださいね。」とこの紳士に告げて家の中へ入ろうとしたその時、
家の前にゆーっくりと車が停まった。
そして助手席側の窓がウイーンと下がって運転席から女性がこちらに向かって叫んだ。
「お父さん!! 良かった〜 ここにいたのね。」
娘さんやった。
車から降りてきてサングラスをはずしながら
「すみません。ご迷惑かけて。助かりました。」
もう少しで警察に届けようと思ってたところだったと娘さんが・・・
ご家族に何も言わずに家を出たまま、帰ってこなかったとのこと。
心配してご家族3人で手分けして車で探しておられたらしい。
気の毒過ぎて詳しく聞く気になれなかった。
すぐに娘さんは電報のような手短な言葉でお父さんが無事だったことをご家族のどなたかに携帯電話で伝えて、また何度も私にお礼を言った。
「いや、まだ何もしてません・・・」と言いかけたところで
この高齢の紳士は黙って車の助手席に乗り込み、無表情のまま私に手を振ってくれた。
なんだか急に私はちょっとだけ泣きそうになった。
(泣かんかったけど。)
「いつかは私やオットもこうなるかも」と思ったから?
「無事でよかった」の安堵?
日本にいる90歳の父のことが咄嗟に頭に浮かんだから?
いや、どれも違うねん。
説明のつかない不思議な感情に包まれながら、私も手を振って娘さんが運転する車を見送った。
そうや、洗濯物干してる途中やった!
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